松緑酒造 青森県 六根

手仕事にこだわり丹精込めて仕込む酒。造り手の思いが宿る「松緑酒造」

江戸時代に造園された庭に樹齢3、400年の松が立ち並ぶ。青森県弘前市にある松緑酒造の名は、蔵の歴史そのものである松にちなんでつけられた。

創業当初は酵母を培養した「酒母」を、津軽一円の造り酒屋に販売していた。当時の酒造りは分業化されており、酒母やもろみの仕込みだけを行う酒蔵も各地にあったという。造り酒屋に転じたのは明治になってからだが、それでも150年を誇る歴史がある。

新杜氏を迎え、青森県にこだわる日本酒をリリース

この伝統的な蔵が、2020年に青森県産の新しい酒造好適米「吟烏帽子」と地元の酵母で醸した「六根」をリリース。全国新酒鑑評会の金賞を受賞し、注目を集めた。

そのきっかけは、昔ながらの杜氏に任せた酒造りから自社での酒造りへと大きく舵を切ったことにある。それまでは季節ごとにベテランの南部杜氏を招聘していた。杜氏は2年おきに変わり、仕込み時期の冬場しかいないため夏場は手薄な状態だったという。蔵としてはこうした状態を変えるべく、2019年から社員による酒造りに向けて動き出す。杜氏として白羽の矢をたてたのが合田孝(ごうだたかし)さんだった。

合田さんは今年40歳。生まれも育ちも新潟で、もともと醸造に興味があり、全国で唯一醸造科のあった地元の県立吉川高校に進学した。高校は統合されてなくなってしまったが、県外からも醸造科を目指して進学してくる同級生も少なくなかったという。高校卒業後、地元新潟の蔵で20年近く酒造りに携わっていた。その間に、新潟県酒造組合が作った教育機関である新潟清酒学校にも通い、酒造りの技術と人脈を築いた。

数年前、たまたま弘前に来た際、松緑酒造の取締役から声をかけられ杜氏として入社、酒造りの指揮を取るようになった。

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歴史ある酒蔵の使命と酒造りに宿る蔵人の思い

歴史がある蔵だけに建物や設備、道具は昔のものが多く残っている松緑酒造。それを大事に手入れし、存続させることで、日本酒の文化や歴史を伝えていくことを蔵の使命としている。合田さんは入社後、取り組んだのはこの歴史を生かしながらも、仕事がしやすい環境に整え、設備のメンテナンスや蔵の不具合を直すことだった。

古いことにはまた良い側面もある。機械化されていないので、麹や酒母、もろみづくりなど手作業が多い。また、規模も小さいため作業工程も分業化されておらず、一貫して作業に携わることができる。それゆえに酒造りにかかわる時間も多く、最初から最後の出荷まで見届けることができるそうだ。

合田さんはそれぞれの作業に手間暇惜しまず、愚直なまでに機械に頼らず、感覚を研ぎ澄ませて日々酒と向き合い続けている。「その過程で日々の変化を感じ、子供を育てるかのように米と向き合いながら作業できることは、造り手としての思いが込められる面白い一面」と話す。

もちろん最新の機械を導入することでさらに酒質を上げられるかも知れないが、しっかり原料に向き合い、少しでもおかしなところがあればすぐに対応する。そんな昔ながらの造り方を大事にしながら勉強を重ね、酒造りに向き合うのが自分の役割だと考えている。

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若手育成のカギは「向上心と信頼感」

酒造りのスタッフは、合田さん以外は以前からのメンバーで、彼らとの不協和音が出ないように酒造りの時期に来るベテラン杜氏にこれまでのやり方を確認しながら、松緑酒造ならではのやり方を自分流にアレンジしながら酒造りをしているという。

そのスタッフは浅い若い社員が多く、酒造りの知識や経験に欠けるところもあり、ボトムアップが課題だ。自然相手の酒造りじゃ、生き物である麹やもろみなど思った通りにならないことも多い。1カ月レクチャーしたからといってすぐ身に付くわけでもない。まずは年間を通じて一通りのサイクルを経験し、体感することが最も重要だ。

若手育成のトライアルとして、昨年度から、実際に自分でやってみて、わからないことがあればベテラン職人や合田さんに質問するというやり方を取り入れている。昨年度は若手社員にもろみ造りを任せた。任せることで、自分で考え、工夫しながらもろみに向き合うことができるようになったという。

任せずについ自分で口を出すと、若手は「どうせやってくれる」と思ってしまう。そうなるとなかなか作業を覚えられず、自分のものにならない。任せることで「信頼してくれているから任せられている」と言う自信にもつながり、向上心も上がっているのが実感できるそうだ。

合田さんは「私も今年で40歳を迎え、若手社員を育てる役割を担い、また責任がある」と話す。理想の蔵は、全員が同じ方向を向いていることで、皆がそれぞれやっている仕事に互いに興味を持って、皆で一緒になって造っているんだと思えるような風土を会社に植え付けること。理想を追求することで酒質アップににつなげられると考えている。

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人との繋がりが酒造りの原点

新潟と青森の酒造りに携わった合田さんだが、「道具や作業の呼び方が違う程度で、酒造りには大きな違いはない」と言う。ただ、津軽の冬は厳しい。毎年、気温は当たり前のように異なるため、日本酒造りで大切な温度管理が非常に難しい。

2020年の冬は平均気温が5度を下回り、もろみ造りの温度管理は難しかったという。昔ながらの設備を使っていることもあり、タンクをマットで包むなど工夫を凝らしたが温度は上がらず、アンカなど暖房器具を入れて温度を上げるなど対策が必要だった。

酒造業界は横のつながりが密なのが特徴で、合田さんもさまざまな機会に同業者と会うことが多い。各地の酒蔵には合田さんが学んだ新潟清酒学校の同期生がおり、互いの情報交換も楽しみの一つだ。

青森県内では夏場に勉強会などがあり、他の蔵人と醸造などについて話す機会となっている。また、県内の鑑評会では、他の蔵の大先輩からは色々教えてもらうこともある。こうした出会いと情報交換によって醸造の工夫を思いつくこともあるという。

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青森で醸す、青森らしい酒造りを目指して

最近は日本酒の品質が上がり、ファンは山田錦や雄町などを使った純米酒や純米吟醸酒などを好んで飲むようになっている。そんな時代の中で、合田さんは地元青森の酒米を使って自社酵母で醸す日本酒造りを強化したいと考えている。

青森の酒造好適米は4種類しかないが、それを使うことで青森らしい酒ができるのではないかと思っている。昨年、全国鑑評会に出品するにあたって県産の新しい酒造好適米の吟烏帽子を使ったのは、そんな願いからだった。

吟烏帽子は2018年から青森県内で試験醸造が始まり、翌年から全県をあげて酒米として導入された。大吟醸などにも使える上質な酒米であることと、ちょうど入社して年だったこともあって、縁を感じて導入したという。ゆくゆくは青森県産の米だけで酒を造るのが目標だ。

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松緑酒造の新たなるチャレンジ

松緑酒造の特徴は、地元岩木山の湧き水を使っていることにある。この伏流水によって軟らかく味わい深い酒質になる。米を丁寧に磨くことからブランドに「六根 ダイヤモンド」や「六根 翡翠」など宝石の名前をつけているのも特徴的だ。全量アルコール添加しない純米酒で、無濾過瓶貯蔵で出荷するのもこだわっている。

また、イスラム教のハラル認証のように、ユダヤ教の教義に則った安全で高品質な食品であることを示すコーシャ認証を青森県の酒造会社で初めて取得したのも松緑酒造だ。

「六根」は深い味わいの酒質で、味のしっかりとした料理にも負けることなく合わせることができる純米大吟醸。酒だけでも十分に味わえる深さがある一方、料理と合わせることで互いの風味を引き出すこともできるのが「六根」の魅力だ。「和食でも洋食でも寄り添える日本酒に仕上げているので、様々なシーンで楽しんでもらうことを願っている」と話す。

「2019年以降は、これまでの酒質と異なる新たな仕込みにもチャレンジしており、レギュラー商品に定着させたい」と、新たな日本酒造りにも力を注いでいる。

会社名株式会社松緑酒造
代表者千田 祐理子
住所青森県弘前市大字駒越町58番地
電話0172-34-2233
ホームページhttps://matsu-midori.com/
銘柄「六根」「松緑」「麗峰」「刑事」

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