泡盛と聞くと「アルコール度数や香りが強く飲みにくそう」「焼酎との違いが分からない」のようなイメージを持たれがちですが、近年では製造技術や設備の向上により昔に比べ飲みやすくなっているのをご存じでしょうか?
黒船で有名なペリーが江戸末期に琉球を訪れ、初めて泡盛を飲んだ際「まろやかに熟し、きつくて甘くて、フランスのリキュールのようだ」と言わしめたほど、泡盛は古くから沖縄文化に根付き愛されてきた蒸留酒です。
泡盛は原料である米の香味や濃厚さだけでなく、一般的な焼酎とは少々違う作り方だったりと特徴的なお酒でもあります。
これを機に泡盛の奥深さを知り、楽しむきっかけにして下さいね。
泡盛の製造工程
泡盛や焼酎は「単式蒸留」で作られる蒸留酒です。はじめに焼酎の製造方法を確認しながら泡盛の製法を見るとより理解が深まります。また、沖縄に近い奄美諸島の黒糖焼酎の作り方も参考にしてください。
単式蒸留とは単式蒸留器(ポットスチル)に入れたもろみを熱し、蒸気を冷やすことで焼酎を取り出します。この作り方は、風味を残しつつアルコール度数を高める最も古い手法。
蒸留することで素材の風味を残しつつアルコール度数を高められるため、泡盛や焼酎だけでなくモルトウィスキー・コニャックを蒸留するのに用いられています。
泡盛と焼酎の作り方の違い
焼酎と泡盛は麹・原料ともに「米」が使われており、麹の作り方や蒸留方法も同じなため一見違いが分かりにくいですが、比べてみるとどちらにも細かな違いがあります。
泡盛 | 焼酎 | |
製麹 | タイ米を使用する | 米や麦を使用する |
仕込み | 全麹仕込み 麹の全量を水と麹でいっぺんに仕込む作り方 |
|
蒸留 | 単式蒸留 | 単式蒸留・連続式蒸留 |
貯蔵・熟成 | タンク・壺 | タンク・壺・樽 |
割水・調整 | 割水して度数調整 | 割水して度数調整 |
瓶詰め | 瓶に詰め出荷 | 瓶に詰め出荷 |
使用する米がタイ米であったり、仕込みが一度だったりするんですね。
泡盛と焼酎の原料の違い
麹の原料となるお米が違うことをご理解いただけたと思いますが、麹菌にも黒麹菌だけを使ったりします。これは、沖縄ということが大きな要因で、アジアから製法が伝承したこと。そして気温が高いので酒造りに強い黒麹菌を原料として使用するのです。
芋焼酎、米焼酎、麦焼酎などの焼酎の種類と見比べたりすると原料の違いをより理解できると思います。
泡盛 | 焼酎 | |
麹の原料 | タイ米:堅いため米麹にしやすく温度管理がしやすい | 米or麦:米は食用米、麦は大麦を使用 |
麹菌 | 黒麹菌:クエン酸の生成が多く雑菌の繁殖を防止できる | 白麹菌or黒麹:白麹は麦米や焼酎、黒麹は主に芋焼酎に使用される |
酵母 | 泡盛酵母:主に泡盛101号酵酵母を使用 | 焼酎酵母:協会酵母、鹿児島酵母、宮崎酵母、熊本酵母などを使用 |
主原料(2次仕込み) | タイ米(インディカ米) | 米、麦、芋、黒糖 |
製麹
製麹とは、麹菌を繁殖させ麹を作る作業のこと。泡盛の製麹に使われる麹は「黒麹菌」です。
中国の福建省では「鳥衣紅曲(ういきょうこく)」と呼ばれる黒麹菌、紅麹菌を混ぜ合わせた混合培養がありますが、黒麹菌のみで製麹し蒸留酒を作っているのは世界的にも沖縄だけなのです。
麹の原料となるタイ米に麹菌を散布し、温度や湿度管理を徹底しておこなうことで麹菌を繁殖させます。
製麹の目的は、
1.米や麦に含まれるでんぷんを分解しブドウ糖に変える
2.タンパク質を分解し、うま味成分であるアミノ酸を生成する
3.酵母を増やしアルコール発酵を促進させる
製麹は泡盛や焼酎・日本酒造りの基礎となるため、「麹室(こうじむろ)」にて徹底した品温管理のもと製造されます。
全麹仕込み
全麹仕込みとは、麹を原料として仕込む作り方のことを言います。
焼酎の場合、製麹の後は米(麦)麹・水・酒母を混ぜ約5日間かけ醗酵させる「一次仕込み(一次もろみ)」を経てもろみ・水・原料(米・麦・芋など)を加え8~10日間かけ醗酵させた「二次仕込み(二次もろみ)」があり、一次仕込み・二次仕込みと分けるのが一般的な作り方です。
ところが泡盛の場合、麹と水を一つのタンクやカメに全部混ぜ込む「全麹仕込み」で一度にもろみを作り上げてしまいます。
少々乱暴な作り方に感じますが、泡盛がこの作り方で製造されるのには、泡盛の生産地である沖縄の気候が関係しているのです。
沖縄は東北や関東に比べ、冬でも暖かな上夏の訪れも早く台風も多い地域。夏の平均気温は31度、冬でも平均気温が19度と高温多湿で温暖な気候なため、一般的な焼酎の仕込み方である一次仕込み・二次仕込みで仕込んでも、もろみが出来上がる頃にはもろみ自体が痛んでしまいます。
泡盛の場合、原料であるタイ米を全部麹にし、麹全量と水・酵母を一度に入れ仕込むことで、黒麹が作り出す大量のクエン酸がもろみに雑菌が湧くのを防ぎ、麹を全量使うことでアルコール度数の高い泡盛に仕上がります。
そして全麹仕込みの大きなメリットは、原料の濃厚な甘みやバニラや果物のような香りを最大限に引き出すこと。
泡盛だけでなく焼酎や酒の味は「麹」で決まると言っていいほど大切なものです。泡盛特有のまろやかな甘さや強い風味・深いコクが全麹仕込みで引き出されるのも納得ですね。
蒸留
泡盛の蒸留には「単式蒸留」が使われますが、これは一度だけ蒸留を行うことで泡盛の原料である米の風味やうま味・香りを引き出されるからです。
単式蒸留にもいくつかの種類がありますが、泡盛で最も多く用いられるのは「常圧蒸留」。
「常圧蒸留」は通常の圧力のまま温度を上げ蒸留することで原料の雑味が残りやすいものの、原料のしっかりした風味をそこなうことなく取り出せることから、長期熟成させる古酒を作る場合には常圧蒸留が用いられます。
「減圧蒸留」は蒸留器内部の圧力を通常の1/10程度に抑えることで、40~50度の低温でも沸騰するため、焦げ臭さがなく口当たりが優しくフルーティな香りになるのが特徴。
泡盛の場合、以前は常圧蒸留ばかりでしたが、最近では飲みやすさを追及した減圧蒸留を用いた泡盛も増えています。
自分好みの泡盛や焼酎を探す際の基準として、
・素材の味を活かしたどっしりとした味わいや風味を楽しみたいなら「常圧蒸留」
・泡盛独特の甘さや麦・芋の香りが苦手なら、ソフトですっきりとした味わいが好みなら「減圧蒸留」
のように、蒸留方法を参考に泡盛や焼酎を選ぶのもおススメですよ。
貯蔵・熟成
蒸留後の泡盛は貯蔵され、出荷されるまで熟成されます。蒸留後の泡盛には独特の臭いがついており、美味しさを十分に楽しめる味ではありません。
硫黄化合物やアルデヒド臭など、ガスや特有の蒸れた刺激臭いがしますし、原料に含まれていた油を取り除く必要があるため一定期間熟成させる必要があります。
焼酎の場合蒸留後、貯蔵・熟成され最短1~3カ月(蒸留後熟成)で出荷されますが、泡盛の場合半年~1年間タンクやカメ・樽(たる)などで熟成させたのち出荷されます。
熟成することで泡盛が美味しくなる理由は、
1.アルコールと水が混じり合うことでまろやかになる
2.空気に触れることで刺激臭が抑えられ、香りが増す
などの効果があり、熟成させることで口当たりがまろやかで香り高い泡盛となります。
そして泡盛の美味しさを十分に味わいたいなら「古酒(こしゅ/クースー)」は絶対に外せません。泡盛の古酒とは「3年以上貯蔵した泡盛」のことです。
焼酎と同じく泡盛も熟成させるほど美味しくなるため、長期熟成させるほど味がまろやかになり香りも増していきます。
以前は3年以上熟成させた泡盛が全体の50%以上であれば古酒と記載してもOKでしたが、現在では全量が3年以上貯蔵したものを古酒と表示することになっています。
例えば3年・5年のように寝かせた年数を表示する場合、泡盛の全量が3年熟成した泡盛でなければいけません。
他の泡盛とブレンドした場合、10年熟成した泡盛であっても3年物の古酒を混ぜていたなら表示は3年とする必要がある訳です。
なお沖縄泡盛には「仕次ぎ」と言われる伝統的な長期熟成方法があります。作り方としては、貯蔵年数の古い泡盛を飲んで減った泡盛をつぎ足しながら、熟成させる方法。
一番古酒(親酒)で減った分の泡盛を二番古酒から補充し、二番古酒が減った分を三番古酒から補充、三番目古酒には仕次用古酒を入れ補充するという風に、継ぎ足し続けることで長期熟成し、古酒を育てていく…という風に、自分好みにカスタムできるのが最大の魅力です。
年に一度の祝い事に開封する、蒸発で減った分のみ継ぎ足し5年10年熟成させたりと、やり方は個人の好み次第。
現在ではどの泡盛醸造所でも仕次ぎは取り扱っておらず、一般家庭や酒屋などで古酒を育てる方法として楽しまれている作り方です。
なお泡盛の素晴らしい点は、瓶詰めした後も熟成し美味しくなるところ。
泡盛が単式蒸留で1度のみ蒸留するため、残った油成分などが時間をかけゆっくり分解されることで、古酒独特のうま味・香りを生み出します。
仕次ぎは無理だけど手軽に古酒を楽しみたいなら、直射日光の当たらない場所に保存し熟成させるのがおススメ。
泡盛には賞味期限がなく、瓶詰めされた年月日が表示されていますので、表示を目安に自宅の押し入れや床下収納での保存が良いでしょう。
割水・調整
蒸留後の泡盛は約45度前後程度。
泡盛の度数は酒税法により45度以下と決められていますから、出荷前に水で調整する必要があります。
瓶詰め
割水でアルコール度数を調整した後は、瓶詰めし出荷されます。
いかがだったでしょうか。一概に焼酎の種類には、泡盛、芋焼酎、麦焼酎、米焼酎、黒糖焼酎と地域色豊かな焼酎が日本にはたくさんあることがご理解いただけたと思います。
是非、各地を訪れたときには、その地方の焼酎を飲んでいただくと嬉しいです。